ASTM D412エラストマーの引張試験に関する定義ガイド

ASTM D412に準じたエラストマーの引張強度試験の実施


筆者:Kayla Thackeray

ASTM D412は、加硫(熱硬化)ゴムと熱可塑性エラストマーの引張特性を測定するための、一般的な規格です。これらに属する複合材料は、タイヤ、サッカーボール、輪ゴムなどのさまざまな消費者製品の材料として使用されています。また、スペースシャトルのOリングなど、過酷な環境条件でも安定した性能を発揮することが求められる、特殊な材料にも使用されています。

 

このガイドは、ASTMD412引張試験の基本的な要素である必要な材料試験機、ソフトウェア、およびサンプルの概要をご紹介します。ASTM D412に沿った試験を計画している場合は、このガイドは規格全文に相当しないことをご理解ください。

測定の対象となるもの

ASTM D412は、引張ひずみのある状態での材料の弾性と、試験後、材料に応力がかからなくなった状態での材料の挙動を測定します。ASTM D412は、万能試験機(引張試験機ともいう)を用いて500±50 mm/分の速度で試験片が破断するまで実施されます。ASTM D412ではさまざまな引張特性を測定しますが、最も一般的なものは以下の通りです。

  • 引張強度 – 試験片を引き伸ばし、破断するときに負荷される最大の引張応力。
  • 所定の伸びにおける引張応力 - 試験片の一様な断面を所定の伸びまで引き伸ばすために必要な応力。
  • 最大伸び -引張荷重下で材料が破断する際の伸びのこと。
  • 永久伸び - 試験片を所定の方法で引き伸ばし、収縮させた後に残る伸び。元の長さに対する割合として表されます。

インストロン万能材料試験機におけるASTM D412の試験

ASTM D412は、エボナイトのような硬くて低伸度のエラストマーの試験には適用されません。エボナイトや硬質プラスチックの試験については、ASTM D638を参照してください。

引張試験システム

ほとんどのASTM D412試験は、エラストマーやゴムのASTM D412引張強度試験を適切に実施するためのさまざまなアクセサリーと卓上型万能試験機を使用し行うことができます。

標準的なパッケージとして、3400シリーズ試験システム、XL長伸度伸び計、一対の手動式ローラーグリップが含まれます。このシステムは、中小規模のエラストマー製造会社や、初めてD412用システムを導入する企業に最適です。より高性能で効率的なシステムは、6800シリーズ試験システムに、AVE 2非接触式ビデオ伸び計と、高性能エアキットを備えた2712シリーズ空気圧式グリップ1セット組み合わせたシステムです。このシステムは、タイヤメーカーや、グローバルなエラストマーメーカーの世界標準となっています。高い生産性を必要とするお客様には、インストロンのマルチステーション試験システムが最適で、5種類のサンプルを同時に試験できます。ASTM D412の試験設定の例を以下の図に示します。

ASTM D412に準じた試験の設定

ASTM D412に準じた試験の設定

1. Instron 6800

2. Bluehill Universalダッシュボード(2490-696)

3. 2580シリーズロードセル

4. 5 kN空気圧式グリップ(2712-045)

5. 2603-080長伸度伸び計

 

 

 

ソフトウェア


Bluehill Universal はお買い上げ時に、アプリケーションモジュールが無償で付属します。各アプリケーションモジュールには、あらかじめ設定された試験メソッドと補助文書が用意されています。エラストマーモジュールを選択したユーザー向けに、ASTM D412を含むさまざまな規格に準拠した試験を支援します。

Bluehill Universa

試験片

ASTM D412は、試験片の種類によって2種類の試験メソッドを記載しています。この2つの試験メソッドでは、同じ結果が得られないことに注意してください。A法は「ダンベル型」や「ドッグボーン型」の試験片を使用し、B法はリング型の試験片を使用します。A法はB法よりも一般的に使用されています。ドッグボーン型試験片は、射出成形シートまたはプラークから型抜きする必要があります。板を押し出す方向は、材料に微妙な方向性が作られるので重要です 。一貫性を保つために、すべての試験片は長手方向に平行になるように切断する必要があります。

試験片の測定

ASTM D412の試験で許容されるドッグボーン型試験片は6種類、カットリング型試験片は2種類です。最も一般的な形状はダイカットCドッグボーン型で、全長115 mm(ゲージ長25 mm)、幅6 mm、厚さ3 mmが求められます。試験片の厚みは3回測定し、その中央値を合格とします。

ASTM D412試験に使用するすべての試験片は、規格への適合性を確認するため、ASTM D3767に従ってマイクロメーターで測定する必要があります。Bluehill® Universalの自動試験片測定装置の機能により、オペレーターは最大2台のマイクロメーター等測定装置をコンピューターに接続し、データを直接ソフトウェアに入力することができます。これにより、オペレーターの入力ミスが減り、効率性が向上します。

試験片のアライメント


試験を適切に行うには、試験片は斜めに傾けず、フェースに対して垂直になるように保持する必要があります。試験片のアライメント不良は、試験結果の大きなばらつきの原因となるため、各試験で試験片がすべて一貫して配置する必要があります。

アライメントのずれに対処するには、試験片の幅に近いフェースを使用する方法があります。この方法では、目視で比較的容易に配置を調整できます。アライメント不良を防ぐ最も簡単な方法は、グリップ本体に試験片アライメント装置を直接使用することです。これは、試験片が正しく配置されていることをオペレーターが簡単に確認するため、停止位置を調整できるシンプルな棒状のデバイスです。

グリップ


試験の実行に備えて、エラストマー試験片にグリップを一旦締め付けると、不要な圧縮荷重がしばしば負荷されます。このような荷重は、微小であっても、適切に処理しなければ試験結果に支障をきたすことがあります。試験結果にオフセットが生じるため、試験片を挿入後に平衡化しないことが重要です。Bluehill Universal材料試験ソフトウェアは、複数の試験片に対する荷重を正規化し、たわみや圧縮荷重を除去するようプログラムできるため、試験片に対して一貫した結果を得ることができます。6800シリーズ万能試験機で利用できる試験片保護機能は、試験の動作限界を定める前の設定段階において、試験片やシステムの損傷を防止するために設計されています。試験片保護機能をオンにすると、クロスヘッドが自動的に調整され、不要な荷重が所定の範囲内に制限されます。

エラストマーサンプルが伸びると、その厚さが減少します。そのため、ASTM D412では自動的に締まるグリップを推奨しています。フェースにかかる圧力は一定かつ均一なため、サンプルが薄くなっても、試験中にグリップから滑り落ちることはありません。エラストマーの試験には、ヤスリ目のフェースをつけた空気圧式グリップが非常に効果的です。空気圧式グリップにより、吸入空気圧が自動的に調整されるため、試験中に試験片の厚みが大きく変化しても保持力を一定に保つことができます。また、ばねでサンプルに一定の圧力をかける自動締め付けローラーグリップを使用するのも効果的です。ASTM D12のB法を使用する場合は、当社のOリング治具を使用し、Oリングの試験片に対して試験することができます。上下の治具での回転軸を使用し、局所的な応力集中を防ぐグリップです。

10 kNモデル | 2712-046
2613-002
5 kNモデル | 2713-002

伸び計

伸び計は規格においては必要とされていませんが、精度と再現性に優れた結果を得るには、ひずみ測定を行うことをお勧めします。クロスヘッド移動量に基づくひずみ測定は、試験片がゲージ長の外に伸長するため、精度が低下することがあります。XL長伸度伸び計は、エラストマー材料用に設計されており、試験片が破断しても使用できます。ナイフエッジのクランプ力を調整することで、試験片の早期破断を低減します。この伸び計は、わずか1インチのゲージ長で最大3,000%のひずみを測定することができます。

長伸度伸び計

エラストマー材料には、標準型または高精度型非接触式ビデオ伸び計2(SVE 2またはAVE 2)のような非接触式の伸び計が最適です。特に、繊細な試験片や、試験を行うために恒温槽が必要な試験片に適しています。非接触式ビデオ伸び計は、オペレーターの干渉による結果のばらつきを減らし、高い処理能力を必要とする試験室の効率性を高めるというメリットもあります。

自動ビデオ伸び計

恒温槽

多くの場合、ASTM D412で試験されたエラストマーは、将来的には温度環境下で使用されます。温度条件はエラストマーの引張特性に大きな影響を与えるため、試験条件が意図した最終用途の条件を確実に模倣するように注意する必要があります。試験速度、温度、湿度、試験片の寸法、および試験前の条件はすべて試験結果に顕著な影響を及ぼし、試験で有用なデータを得るために制御する必要があります。これらの要素が材料の最終用途を確実にシミュレートするために、ASTM D412は、加熱または冷却(LN2またはCO2)を使用できる恒温槽の内部で頻繁に実施されています。

インストロンの600シリーズ恒温槽は、試験の実施中、槽内の温度をモニターすることができます。さらに、試験開始前にすべての試験片が適切に調整されるように、Bluehill Universal内で均熱時間と温度を設定することができます。

 恒温槽

試験処理能力


試験処理能力の向上を必要とする試験室では、システム設定に変更を加えることができます。自動試験片測定装置、空気圧式グリップ、試験片アライメント装置など、試験オペレーターの手動入力の量を減らすことで、試験効率を向上させることができます。しかし、ASTM D412の試験時間は、予想される試験片の伸びに依存し、最小化することはできません。延性の高い材料では、試験サイクル全体の大部分は、試験の持続時間が占めます。このような場合、マルチステーション試験フレームを使用すると、オペレーターは同時に最大5つの試験を実行できるため、最高の試験処理能力を発揮することができます。

試験片の寸法測定、試験片の取り付け、試験片の取り外しが組み込まれた完全自動化試験システムもご利用いただけます。これらのシステムは、オペレーターによる介入なく何時間にもわたって動作できます。さらに、人為的エラーによるばらつきも抑えます。

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